クスリあ・れ・こ・れ〈隔月掲載〉

薬剤師　星隈 望弥

漢方薬

漢方薬の服用と正しい知識～漢方薬の意外な落とし穴

漢方薬は生薬（天然物）から作られているから安全と思っている方が多いようですが、実はそれは大きな誤りです。天然物にも有毒なものがありますし、過剰に摂取してしまうと有害な症状を引き起こす場合があります。

漢方薬の三分の二以上に含まれている甘草は痙攣（けいれん）・咳・炎症を抑える作用などがあります。しかし過量に摂取したり、長期的に服用を続けた場合、「偽アルドステロン症」というアルドステロン（電解質や水分調節などを司るホルモン）が過剰に分泌された時と似た症状が出現することがあります。具体的な症状は、低カリウム血症（血中のカリウム濃度が低下）、血圧上昇、全身倦怠感、筋力低下、浮腫などの症状が起こります。

漢方薬は医師の処方がなくても気軽にドラッグストアなどで購入することができセルフメディケーションで気が付かないうちに甘草の過剰摂取をしている場合もあります。もし漢方薬を複数飲んでいたり、服用していて上記のような症状がみられる時には気軽に薬剤師に相談して下さい。

インフルエンザの予防と対策

感染管理認定看護師　小池 美穂

インフルエンザの季節に向けて

秋も深まり、冬支度の季節になりました。冬はクリスマスやお正月、忘年会や新年会など行事が多く、人が集まる機会が増える季節であるとともに、インフルエンザやウイルス性胃腸炎の流行期でもあります。

インフルエンザはウイルスの感染によって発症します（普通の風邪とはウイルスの種類が違います）。インフルエンザウイルスは感染している人の唾液や痰の中にいて、咳やくしゃみ、会話時に飛んだ飛沫を他の人が吸い込んだり、ウイルスが付着した手で、鼻や目、口などの粘膜に触れることで感染します。唾液や鼻汁などと一緒に物に付着しているウイルスは湿度などの状況にもよりますが、8時間程度感染力を維持している、という報告もあります。世間で流行しているときは、つり革や手すりなどにも付着してい事もあります。家に持ち込まないためには手洗いが大切です。

インフルエンザワクチンに関しては、接種しても罹ってしまうことがあります。しかし罹った時に重症化を防ぐ効果があります。特に高齢の方や基礎疾患のある方、妊婦さんは罹った時に重症化するリスクが高いので、禁忌事項にあてはまることがなければ、体調の良いときに接種をお勧めします。予防策を別表にまとめましたのでご参照ください。また、バランスの良い食事を摂り、しっかり睡眠をとるなど、身体の免疫力を下げないようにすることも大切です。

行事も多く、楽しい季節をどうぞ元気でお過ごし下さい。

季節性インフルエンザ感染予防策

①ワクチン接種

• ・ワクチン接種後、抗体ができるまでに約2週間かかる。効果は5ヶ月間持続。
• ・「かからない」効果よりも「かかったときに重くならない」効果を期待。接種後も手洗いなどの予防を。

②手を洗う

• ・石鹸と流水でこまめに丁寧に。
• ・アルコール性手指消毒薬も効果あり。
• ・病院に来たときは、入る時と出るときに備え付けの手指消毒薬の使用を。（持ち込まない、持ち帰らない）

③マスクを着ける（鼻と口をきちんと覆う）

• ・自分から他人に移さないために、咳や鼻水、くしゃみ、熱が出ているときは着用を必ず。
• ・人混みや換気の悪いところに行くときは予防用にマスクの着用を。

＊上記に加えて、うがい、部屋の加湿（40％以上）などの対策を。
インフルエンザウイルスは湿度約15～40％の乾燥したところが要注意。（加湿で、カビの繁殖にも要注意を）

シリーズけんさ86【心臓超音波検査】

臨床検査技師　四分一 茜

心臓のはたらき

心臓超音波検査（心エコー）についてお話しします。心臓は4つの部屋からなっており、それぞれの部屋の間は血液が一方向に流れるように弁で区切られています。心臓はポンプのように働き、弁がきちんと開いたり閉じたりすることで絶えず全身に血液を送っています。私たちが元気に活動するためには血液が不可欠で、それを体中に届けているのが心臓なのです。では心エコーはどのようなことが分かる検査なのでしょうか。一言で言えば、「ポンプの調子」をみる検査です。もう少し具体的にお話しします。

調子を見る4つの要因

①動きはよいか…心臓は冠動脈という3本の血管から栄養をもらって働いています。その血管が狭くなったり詰まってしまう（狭心症や心筋梗塞）とポンプの働きが弱く（動きが悪く）なってしまいます。

②大きさ…心臓が弱っている時には心臓が大きくなることが多いといわれています。また、4つの部屋の大きさのバランスが崩れていないかをみます。

③壁の厚さ…血圧が高い状態が長く続くと心臓の壁が厚くなり（心肥大）、肥大が進むと心臓への栄養が足りなくなり、その結果十分な量の血液を送り出すことができなくなってしまいます。

④弁の様子…弁の開きや閉じ具合をみることで血液の流れの向きをみます。心臓を色々な角度から観察することでこれらを評価します。

心電図とは違うの？という疑問をお持ちの方がいらっしゃると思いますが、心電図は心臓が出す脈のリズムをみる検査であるのに対し、心エコーは心臓そのものの働きをみる検査となっています。

次回は実際の検査の様子を説明します。

いのちと人権の現場から

東京勤医会理事長　本間 章

60歳から高血圧と肺気腫のため3年間付属診に通院していた患者さんがいます。一年中断し、動悸と背部痛のため今年7月救急再受診。中断の理由は、19歳から建設業に従事、最近の不景気で仕事がなくなり、生活が困窮、貯金を食いつぶし受診できなくなったとのことでした。この方は「生活と健康を守る会に相談し、やっと生活保護を受け、受診できるようになった。医者にかかれなくて死んでしまうのかと思った」と話してくれました。

私たちは経済的理由で医療を中断せざるを得ない人が多いこと、さらに多くはそのことを本人からは切り出せないことを認識しなければなりません。政府は社会保障充実のためと言いながら、所得の低い人への負担を増やす消費税の増税や、生活保護費や年金の減額、一方で大企業の減税など格差を広げる政策を次々に打ち出しています。ますますこのようなケースが増えるのではないかと心配です。

日経新聞に成長著しいミャンマーの救命救急医療に保険会社と日本の医療法人が提携し、富裕層を対象にした会員制のサービスを提供するという報道がありました。国内で医師、看護師不足が叫ばれているなか、医師看護師を海外に派遣するというものです。一部の人のための医療をすすめ、利益追求が目的になることがおおいに危惧されます。国民の命と健康を守り手として、だれもが差別のない医療を受けられる権利を守る運動を、地域の皆さんと作っていかなければならないと思っています。

東葛病院・付属診療所の医療活動（2013年9月分）