東葛の健康 No.344(2013年3月号)
東葛病院の医療【精神神経科】
うつ病は疲労・消耗と適応の病
人に備わる跳ね返す力、克服する力信じ、育てる事が治療、回復に
厚生労働省の統計でも、うつ病はここ9年で2.4倍に増えています。うつ病について大谷明医師に語っていただきました。
東葛病院・副院長
精神神経科・医師
大谷 明
近年、うつ病はあまりに単純に語られすぎてしまったように思います。「こころの風邪」「脳内セロトニンの不足」「症状の項目数(チェックリスト)で診断する」等々。こうした言説は一面では正しいのですが、専門家の間でも、こうした流れに対して反省期に入ってきています。うつ病は本質的にはきわめて多様な状態・病態の総称と言わねばならないでしょう。それでも多様なものの中から共通と思われるものを取り出す努力をしてみましょう。
生活上の様々な事が要因で脳消耗
うつ病は「疲労・消耗」および「適応」の病と言えるのではないでしょうか。ここで「消耗」というのは身体だけでなく「こころ・精神」も疲労することを含みます。疲労しやすさには個人差が大きい。その人の脳そのものが疲れやすく、脳という身体の一部の病気と言っていいような病態もあります。一方、強いストレスの中でも消耗しきらない力を持っている人もいます。
消耗の原因となることは、それこそ千差万別で生活上のあらゆることが要因となりえます。身体の病気、介護・育児疲れ、嫁姑との葛藤、相続問題などの家族内の問題。近所とのトラブル。職場において長時間労働、業績達成のプレッシャー、上司や部下との関係の悩み等々。私の外来にいらした方の要因を振り返ってみると、まだまだあげることができるように思います。
悪循環の要因を一つひとつ消して
ストレスになる出来事がうつ病につながっていくのを図式化したのが【図1】です。これは、日本うつ病学会の治療ガイドラインを一部改変したものです。図のような悪循環が形成されてしまうのがうつ病と言えます。こうした悪循環を形成している要因を、一つずつ消していって、悪循環を断ち切ることが治療となります。こうした介入を図式化したものが【図2】です。ここでひとつ解説しておきます。「脳」の要因が強いか「こころ・精神」の要因が強いかは人によって違います。「脳」の要因が強ければ薬物療法が効果的であり、「こころ・精神」の要因が強ければ、精神療法、ケースワーク(支援・援助)、環境調整の比重が高くなります。
うつ病発症に至る「脳」と「環境」の関係と悪循環
うつ病で生じている悪循環を遮断するための介入
近年増える青年層
さて、実は、以上のようなアプローチで「消耗」から回復しただけでは、うつ病は改善しない場合があります。うつ病になりやすい人は、まじめで几帳面で周囲に気を使う性格の人が多いと言われています。無理をして、つま先だって生きてきた人が、そのまま元の場所に戻って来たら、また消耗するということをくり返すことになりかねません。今までの生き方を修正するのは簡単なことではありません。
うつ病の治療を「下山案内」に例える場合があります。ここのところが、うつ病が「適応」の病と言われる所以の一つです。また、最近では、これから社会に適応していく、すなわち「登り」のところでつまずく青年が少なくありません。こうした青年の場合は社会に適応していく力(知識、技術だけでなく心構えや生活習慣等々も含みます)が不足している場合が少なくありません。それは自分の弱点に向き合うことであり、ただでさえ潜在的には自己評価が低い現在の青年には簡単なことではありません。
克服する力を信じて大事に育てる
現在の精神医学では、人には、レジリアンス(発症の原因となるストレス、病気、そして自分自身の足りない点に対して、跳ね返し、克服する力)が備わっていると考えるようになってきています。レジリアンスを信じて、大事に育てていくことが治療、回復につながっていくと思います。
クスリ あ・れ・こ・れ「花粉症対策とお薬」〈隔月掲載〉
ピークを迎える前に受診を
薬剤師 八田 加奈子
花粉症のある方にとって辛い時期に突入となります。花粉の飛散が観測され始めるのは例年2月中旬くらいという印象があります。ドラックストアや大手雑貨屋、家電量販店などで毎年様々な花粉症対策グッズが販売され、どのグッズが効果的なのか実際迷ってしまうのではないでしょうか?グッズを駆使するのも良いですが、やはり効果的なのは受診してきちんとお薬を使用することが大切だと思います。
花粉症常連さんには毎年その飛散量の多い少ないにかかわらず、ピークを向える前に内服薬などの使用をお勧めしています。気象状況によっては一気に花粉が飛散する可能性があり、そうなると一般に知られるくしゃみ、鼻水、目のかゆみなど症状の他、発熱、頭痛、咳、呼吸苦等の風邪に似た症状も出現する可能性があります。
そうなってしまってから薬を飲み始めても即効性はあまり期待できません。ある程度効き目が早いといわれる薬の中には、眠気や倦怠感などの副作用や、効果が持続しないなどのデメリットもあるため、あらかじめ受診し、副作用や服用回数の少ない内服薬を処方してもらうことや点眼薬、点鼻薬等も合わせてもらっておくと安心だと思います。アレルギー用薬はその種類や性質、流通も進歩し、ドラッグストアで手軽に入手できるようになり、便利になりましたが、相互作用や安全性などの情報を入手するためにも店舗にいる薬剤師にご相談ください。
シリーズけんさ78
腹部超音波検査
臨床検査技師 中城 栄治
腹部超音波検査についてお話しいたします。呼び名は超音波と言うよりエコーと言った方が馴染みがあると思います。エコー検査は体の様々な場所を施行しますが、今回はお腹に焦点を当てます。エコー検査では肝臓の様に中身がぎっしりと詰まった臓器を得意としており、逆に胃の様に、中が空洞の臓器は不得意としています。実際には膵、肝、胆のう、腎、脾、膀胱、また、場合によっては前立腺、子宮、卵巣といった臓器をみていきます。しかし、お腹のエコー検査を受けるにあたって、注意事項が幾つかありますのでご承知下さい。
必ず守って頂きたいのは、空腹時に検査を受けるという事です。検査前に食事をしてしまうと、膵臓や胆のうが見えにくくなります。胃の中に食べ物が入ると胃の下にある膵臓は胃に隠されてしまいます。また、胆のうは肝臓から排泄される消化液を一時的に溜めておく袋として機能していますが、食事を摂ると中の消化液が排泄されて、丁度空気が抜けた風船の様に萎んでしまいます。そうすると、胆のうに異常があったとしても萎んでしまっているので見えません。
それから膀胱内におしっこを充満させた状態で検査ができるように、おしっこを可能な限り我慢します。トイレに行った後では膀胱も縮んでしまっているので、異常があっても見えなくなってしまいます。血尿が原因でエコー検査を受ける場合は、特にご注意下さい。以上、エコー検査前の注意点をまとめると、検査は空腹時に受ける。また、なるべく膀胱におしっこを溜めておく。この2点にご注意下さい。
法人看護部「看護介護活動交流集会」 ~患者さんと向き合い、諦めない看護を交流~
昨年上回る157名が参加
2月2日に看護介護活動交流集会が東葛看護専門学校で開催されました。今回で第15回を迎えた集会は、看護奨学生も含め、157名が参加し、昨年の参加者を上回りました。まず、オープニング企画として例年好評の代々木病院合唱団バンブーの歌で始まり、歌の披露のあと、「上を向いて歩こう」を参加者全員で合唱し、交流集会が開会しました。
先輩達から学び全体発展の貢献に
続いて、本間理事長が記念講演を行い「新病院建設と今後の医療展開」について話しました。「法人の創立からの病院の発展、医療経営危機をどのように乗り越えてきたのか。法人の歴史と先輩たちの取り組みを教訓にしながら、東葛病院建て替えに対しても、民医連全体の発展に貢献する姿勢で挑戦していきたい」と話しました。
断わらない医療総合的に診る力を
続けて、本間理事長は、「“断らないことも挑戦”。言葉で言うのは簡単だが、“断らない医療”を掲げるのは容易ではない。この言葉は民主的医療では当たり前なのかもしれないが、地域医療を支える病院としては、患者さんを総合的に診る力が重要になる。日々、患者さんと向き合うことも挑戦していることにつながる」と話しました。そのあと、参加者は、5つの分科会に分かれ、25の事例が発表され、活発な討論が行われ、第15回目の交流集会は閉幕しました。
- 諦めない看護の重要性を再確認代々木病院・看護師 加藤 深雪
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私は今回参加して、患者さんとその家族のちょっとした言葉からの思いを見逃さず、患者参加型看護計画や、ノートでの情報共有、他職種との連携を綿密にとって、要求が叶わなかった事例でも、今後に活かせる反省や改善点が示され「諦めない看護」の重要性を感じることが出来ました。
今回の交流集会で学んだ事を力に、自分達の看護を振り返り、明日からの看護現場での活力にしていきたいと思います。
全集会での報告に聞き入る職員
東葛病院・付属診療所の医療活動(2013年1月分)
付属診療所1日平均外来患者数 | 871人 | ||
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東葛病院 | 1日平均救急・夜間外来患者数 | 71人 | |
1日平均入院患者数 | 301人 | ||
手術件数 | 106件 | ||
主な検査 | 血管造影 | 29件 | |
内視鏡 | 426件 | ||
CT | 861件 | ||
MRI | 232件 | ||
心電図 | 887件 | ||
腹部エコー | 332件 | ||
心エコー | 282件 | ||
救急患者数 | 2186件 | ||
内 救急車搬入件数 | 308件 |
掲載日:2013年3月1日/更新日:2024年10月25日