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医師エッセイ

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依理先生の在宅患者さん記録…訪問診療裏表NO2 ―ニッキ飴―

(2015年01月07日 16:12)

両親は2人暮らし、
私の家から車で10分ほどのマンションに住んでいる。

母は認知症(アルツハイマー病)で、
家に閉じこもりがちの生活をしている。
1人では、行きなれたスーパーと本屋くらいしか出かけない。

父が何度も誘ってやっと重い腰を上げても、
体力が落ちていて散歩のコースは30分程度。
週に1~2回がせいぜいである。

デイケアの利用が週に1回。
回数を増やすようにあの手この手で説得するが、
「フフン」と答えるか、黙ってしまう。

近頃は、行きなれた美容院がつぶれてしまってから、
新しい美容院には1人で行けなくなっていて、
父が付いて行っていた。

そろそろ迷子が危ないと、頭の隅では感じていたが、
行きなれた本屋とスーパーはまだ大丈夫、
だと父も私も思っていた。

携帯電話は1時持ったが、操作が覚えられず、
メールの着信音などでノイローゼ状態になり、
持たなくなっていた。

ある日曜日の午後6時過ぎ、夕食の準備に取り掛かった時だった。
父から電話があった。
「母が家から歩いて5分ほどの本屋へと言って出かけてから、2時間たっても戻らない」

その話を聞いたとき「しまった」という思いがかけぬけた。

父の話では、午後4時過ぎに出かけて、
父も疲れていたので1人で送り出したが、
気になってすぐあとから様子を見に行ったという。
しかし姿が見つからず、
探しまわったが6時過ぎても家に戻ってこない、
とのこと。

認知症の人が迷子になり、
身元がわからず思いがけない遠い場所の施設で暮らしていたり、
線路に入り込んで事故に会ったり等の報道が頭の中を回り始めた。
こんなふうにやってくるのだ、と実感した。

1月の寒さの中で母はどうしているだろう。
家族総動員で、母を捜しに駆けつけた。
連絡係に実家に1人残り、あとは別れて探し回る。

父と私は母の写真を持ってまず近くの交番に相談に行った。
「他にもいなくなった人がいて、その人を捜しに2人出ているので、私が探しましょう」
と、1人交番に残っていたお巡りさんが言ってくれた。
その背の後ろの壁には
「この人を探してください」
という高齢者の似顔絵が2枚はってあった。

正式な届は翌日の扱いになること、
交番ではなく警察署に行く必要があると説明をうけ、
連絡先を告げて交番を後にする。

父と2人で私の車に乗り込み、
父の指示に基づいて、
散歩コースや、
本屋の周り、
よく行くスーパーの周り、
徐々に範囲を広げながら探し回る。

暗い夜の住宅街の道を1本1本覗き込んでは、
人がしゃがみこんでないか、
倒れていないか、
ふらふら歩いていないか見て回る。

80才の母の年齢と体力を考えると、
どうしても早く見つけ出さなければと思う。
しかし夜の住宅街はあまりに暗く、広い。

疲れた時に母がよく飴をなめるので、出がけに飴をもってでた。
疲れと空腹を感じ父と2人で1つずつ舐める。

いつの間にか3時間がたっていた。
公園にすわりこんでいないか近くの公園もしらみつぶしにみてまわるが姿を見つけることはできない。
迷っていたら、どこでもいいから相談に飛び込んでくれればと思うが、
母の内向的な性格からは、そのような行動は期待できない。

9時過ぎ、一旦両親の家に戻って、それぞれが探した場所を確認し、
これから探す先を検討しなおそうということにした。

家で打ち合わせをしているときに、電話が鳴った。

「犬の散歩にでたら、1人でうろうろ歩いているおばあちゃんがいて、様子がおかしいので声をかけたら、そちらの電話番号をいわれたので、」
と女性の声が告げた。

親切なその人は、今いる場所を説明してくれ、
私達が車で迎えにいくまで一緒に待っていてくれるという。

母の歩いていた場所は、探し回った場所から全くはずれた、思いもかけない遠いところだった。
迎えに行った母と会えた時、無事でいてくれてよかった、とつくづく思った。

母は、「えりちゃんに飴をもらった」と車の中でつぶやいていた。
両親の家についた時、母はあまりに疲れていて、うまく歩けなかった。

温かいお茶をいれ、お握りをすすめたが、
母は茫然としていて、
「私はどうしていたんだろう」
と繰り返しつぶやいていた。

翌日、電話をすると、父が、
「昨日のことは、何も覚えていないんだ。
疲れているだろうから休むように言っても、
いつものように、家の中で、シンクや、洗面所の水滴を気にして
テイッシュでふきとっている」
と言う。

母にとっては、かえって覚えていない方が良いのかもしれない。

しかし、81になる父の疲労はどれだけ深いだろう。
この先いっそう目が離せなくなる母をどう見ていこう。
コートのポケットから、
昨日母に渡した残りのニッキ飴が一つ転がり出た。



「老々介護」が増えている。
認知症の軽いほうの人が重い方の連れ合いを介護する
「認認介護」も。
あるいは認知症と体の不自由な夫婦。

訪問診療で出会った様々な人たちを思い浮かべる。
介護保険の改悪ではなく充実、
介護費用削減のための無理やりな在宅介護誘導ではなく、
高齢者が安心して暮らせる、
施設も含めた行政サービスの充実を切に願う。

今後、行政、医療、介護福祉施設...
市民ネットワークの充実が一層求められている。

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